2018-4-13 金

DJ DIARY(鈴木梨江)

初夏に近づくと思い出すのが22年前に住んでいたマンハッタンのマンションからすぐ近くにある紀伊國屋書店でのこと。ブックス&バーと言って、カウンターに座りながら本を選んだり眺めたりするコーナーがあったり、珍しいアンディ・ウォーホルのサイン入り写真集が無造作に飾ってあるなど洒落た本屋さんでした。毎月そのカウンターにゲストを呼んでセミナーが開催されていて、まだ10代後半の青い私にとって大人の溜まり場に来たみたいで嬉しくてよく通った思い出の書店なのです。

ゲストには矢野顕子さんや芥川賞作家やジャズマンがしょっちゅう来ては面白おかしく日本の情勢や音楽業界を語り、真剣に作品について饒舌に話すのを最前列で聞いてました。

1番印象に残ったゲストはジャズピアニスト秋吉敏子さん。当時60代であろう妙齢の女性がティナターナーよろしく超ミニスカで足を組みながら、冗談を交えながらジャズしか話さない様子は誰からみてもカッコよく写りました。

日本人として始めてバークリー音楽院の奨学生として渡米し、何度もグラミー賞にノミネートされた秋吉敏子さん。90年代は長きに渡ってバードランドのレギュラーバンドを務めるなど言わずと知れた日本を代表する名ジャズピアニストです。

でも気負ったところは感じさせず、「前の夫も、今の夫もサックスプレイヤーなの。別にあえてそうしたわけじゃないけどね。わはは」と屈託なく笑うところはとってもチャーミングな女性でした。ひとしきり喋っては、「じゃ弾くから」とピアノに向かって代表曲「Long Yellow Road」をサラッと弾いてる姿にしびれてしまって、CDにサインをしてもらって小躍りしてましたっけ。

紀伊國屋書店からの帰り際に何度もCDを聞き返しては、寄り道したブライアントパークは目にまぶしい青葉が広がっていました。今でも清々しい風が吹く初夏を見つけると、秋吉敏子さんのジャズを思い出します。