2022-12-13 火

県立近代美術館葉山「マン・レイと女性たち」学芸員の朝木由香さん

朝方は冷たい雨でしたが、この時間は日が差してきましたよ。

「マン・レイと女性たち」1月22日まで 神奈川県立近代美術館葉山で開催中。 展覧会担当学芸員の朝木由香さんをスタジオにお迎えしました。

             

とても丁寧な解説をいただきました。その中から抜粋しますと・・

まずマン・レイとは どんな芸術家? 1890年にアメリカ、フィラデルフィアで生まれ、1976年にフランス、パリで亡くなった 20世紀を代表するアーティストです。交流のあった同時代の作家としては、ピカソやマルセル・デュシャンなどがいます。 写真家として知られていますが、最初に志したのは画家で、生涯、絵筆を手放すことはありませんでした。 また、映画やオブジェ、さらに詩画集なども手掛けており、ジャンルを超えた創作を展開したと言えます。

今回のテーマと見どころについてうかがいました。1つめは、回顧展的であることです。 画家として歩み始めたNY,シュルレアリスム運動に参加し、写真家として開花したパリ、第二次世界大戦を逃れてアメリカへ逃れ移住したハリウッド、戦後、再び戻り、晩年を過ごしたパリ。この4つの土地、時代で展覧会を構成し、240点余りの写真やオブジェなどから、彼の創作人生を辿ります。 本展は、フランス文学者の巖谷國士先生がフランスのマン・レイ協会と共同で監修しており、作品のほとんどはフランスから借用したものです。

2つめは、展覧会タイトルの「マン・レイと女性たち」が物語るように、彼が写した対象の多くを占める女性とマン・レイの関係に注目していることです。 マン・レイの恋人でモデルだったキキ・ド・モンパルナス、助手もつとめたリー・ミラー、女性の新しいファッションを切り拓いたデザイナーのココ・シャネル、女性のシュルレアリスト、メレット・オッペンハイム、ポスターにしたニュッシュ・エリュアールは、マン・レイの親しい詩人ポール・エリュアールの妻で、詩画集のモデルにもなっています。 男性カメラマンと女性モデルの関係で言えば、今日、例えば女性ヌードを、美のミューズと言って、安易に讃えるばかりではゆかない、さまざまな見方が問われています。 そういう意味では、マン・レイの撮った女性たちは、古き良き時代ならではの美の象徴のように見えるかもしれません。 けれども、もう少し、丁寧に見てゆくと、マン・レイの眼差しには、対象を客観視する独自のものがあるようです。つまり、私情とか主観を入れない、あくまで客体化したオブジェとして捉えています。 また、キキやリーなどは、単に、カメラマンの指示通りに撮られた女性というよりも、マン・レイの創作に立ち会った人間であるという見方もできると思います。 そう見ていくと、マン・レイの写真のイメージはよりいっそう、豊かなふくらみをもって見えてくると思います。

さまざまな作品から特に注目の作品は? 今回のチラシも3種類作成したように、選び取るのは難しいです。キキやリー、ニュッシュなど、それぞれの個性、技法の独自性などを見ていただければと思います。 強いてあげるならば、戦後、マン・レイが再びパリに戻ってから撮った「宮脇愛子の肖像」です。 彼女は、マン・レイの撮った女性のなかで、唯一の日本人です。 1929年生まれで、戦後、画家を志し1959年に渡欧、留学して間もない頃に マン・レイと知り合い、以後、彼が亡くなる1976年まで交流を結ぶことになります。 展示している宮脇愛子の写真は、まだ30歳そこそこ、駆け出しの頃ではありますが、 自らの創作を追求する強い眼差しと、精神性を、モナリザを思わせる静けさをもって写し出した一枚です。 当時は、画家でしたが、その後、彫刻家として活躍します。

                

この展覧会は、国内4か所を巡回するもので、当館が最終会場になります。 他館ではなかった試みとして、「マン・レイと日本」という小さな特集展を設けています。 マン・レイ自身が日本に対して、特別な関心を持っていたという形跡はないのですが、 マン・レイが日本にいつ、どのように紹介され、どんな影響を与えたのか、という流れを戦前、戦後を通して辿る試みです。 今回の特集では、マン・レイと日本のシュルレアリストとの間で交わされた書簡をはじめ、 日本とフランス、イギリスのシュルレアリストの交流を紹介しています。 前述の宮脇愛子は、シュルレアリスムの薫陶を得、瀧口の導きによって渡欧します。 そこで出会ったマン・レイと、交流を結ぶことで、マン・レイの受容は戦前、戦後へと繋がっているのだと思います。 この特集では、マン・レイと宮脇の交流だけでなく、宮脇自身の当時の油彩や彫刻作品もご紹介しています。 彼女は、「マン・レイと女性たち」の一人ですが、 マン・レイとの出会いを通して自らの創作の根源を探り、彫刻家としてく女性として、見ていただけると嬉しいです。

私も先日 観てきました。見ごたえありますね。そして必ず 一色海岸を臨んだ庭園を散歩する私です。

さて関連企画として 県立社会教育施設公開講座 「マン・レイとその時代」が行われていますが あと2回あります。

 12月17日(土曜) 飯沢耕太郎氏(写真評論家)

12月25日(日曜) 光田由里氏(美術評論家/多摩美術大学教授)

場所 逗子文化プラザ市民交流センター主催 神奈川県立近代美術館 共催 逗子市教育委員会 定員 60名 事前申込制 受講料 各回1,000円

さらに葉山館 では 同時開催のコレクション展 は 内藤 礼 ~すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している 2022~

自然光のみで鑑賞する展覧会です。日没時(午後4時30分~5時頃)や雨天時は、展示室がとても暗くなります。早めの入場をお勧めします。

いずれも  2023年1月22日まで 休館日は月曜日(1月9日除く)、12月29日~1月3日は休館

詳細は神奈川県立近代美術館HPコチラ